皮一枚の紅梅

 ずいぶん前のことだが、ある日突然にこの梅の木が枯れた。原因はまったくわからない。

この門前を飾る紅梅をとても大切にしてきたのだが、残念至極であったことを思い出している。

 もはやこれまでと、根本から切り倒そうと思ったが良くみれば一番下の枝は生きているように思えたのでその枝を残して切り倒した。

枝一本といっても、ご覧のように皮一枚に近い枝である。少し風が吹くとそれだけでも揺れ動く。支えを立てることを考えたり、忘れたりしているうちに、ふと思って、支えを立てることを止めようと決めた。自然は自然の手に委ねるのがよかろう、人間の勝手で手を差し伸べれば良いというものでもあるまい。梅には梅の宇宙がある。それを静かに見守ることにした。

 しばらく花をつけなかったように記憶しているが、今は元気に花をつけるようになった。

時折、出がけにこの紅梅と話をする「元気でなにより、おかげで僕も嫌気にやっているよ」必ず「大丈夫元気だよ」と答えてくれる。