一枚の板

 どこから見ても、それは一枚の小さな杉の板。

それに僅かに手を加えることで、その板はまるで宇宙と交信するような世界を醸し出す。

まもなく陽が沈む、この板にうっすらと見える造形の光と影は刻一刻と、まるで生き物のように変化していく。

作者は意図してか、意図せざるか、このとてもシンプルな作品に時間軸を埋め込んでいる。美しい。

 

 木工作家の森田孝久さんの展覧会に行った。森田さんは茶道を楽しむ作家だが、たまたま稽古場は異なるものの師匠が同じということもあって、ご縁をいただいた。

 

 展覧会場には、お盆、花器、お皿、箱などに混じって木のオブジェが展示されている。その丁寧な仕事を一つ一つゆっくりと見ていくうちに、この作家がどれほど木を愛しているかを知ることができる。

 私は一点のオブジェを求めた。(写真)オブジェというのが正しい表現かどうかわからないが、うっすらとレリーフの抽象紋様が浮き上がる一枚の板だ。同じ紋様でもはっきりと彫ったほうが数段簡単そうにも思えるのだが、そこは技法を知らないのでなんとも言えない。

 「これは?」本人の答えは「波紋が好きなので」。

壁に架けてもと思っていたが、彼の一言で、まず床に置いてみることにした。まもなく日没という光の中で、刻々と変化していく。一枚の板のレリーフをこれほどまで美しいと思ったことはない。

二次元であれ三次元であれアートと呼ばれるものは山のようにあっても、琴線に触れる作品に出会えることは決して多くない。

見ているうちに心が静かになっていく不思議な作品だ。